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第40話 掴めない実感

Penulis: 青砥尭杜
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-02 23:01:26

 祝賀晩餐会を主催するセナート帝国から主賓であるカイトの案内役としてミズガルズ王国を訪れたシルビアの滞在は、当初の予定通り二泊三日の短さで終わり、十一月二十九日の正午にはカイトとその護衛役を務めるセリカとステラ、そして案内役であるシルビアを乗せたセナート帝国籍の黒光りする汽船は、プログレの港からヴォストークへ向けて出航した。

 客船よりも軍艦に近い装甲板で固められた汽船は、セナート帝国が覇権を握った大陸とミズガルズ王国の領土として国を形作る列島との間にある縁海を予定通りに就航し、十一月三十一日の昼過ぎにはヴォストークの港へと入港した。

 港湾都市であるヴォストークは、大陸の東端までを領土としたセナート帝国にとっての「極東の玄関口」となったことで急速に発展した都市だった。

 地形に恵まれた歴史のある良港と、セナート帝国がその威信をかけて敷設した世界初となる大陸横断鉄道の「東方の始発駅」を擁する交通の要衝であるヴォストークの街は、足早に行き交う人々の活気に満ちていた。

 セナート帝国というミズガルズ王国にとって最も警戒すべき仮想敵国でありながら最大の交易国でもある国に降り立ったカイトは「この大陸に父さんがいるのか」という感慨を覚えながら街並みを眺めた。

 師走を前にしたヴォストークの街は、これまでにカイトが見た王都プログレやウァティカヌス聖皇国といった異世界の街よりも密度の高い賑わいをみせていた。

「活気のある街ですね」

 カイトが素直な感想を口にすると、街を案内するシルビアは微笑を浮かべて答えた。

「このヴォストークは積極的に開発を進めるセナート帝国の中でも、勢いのある街の代表格です。お気に召しましたか?」

「ええ、寒いですが、それに負けない熱気を感じます」

 カイトの感想を聞いたシルビアは満更でもないといった表情を隠さなかった。

 ヴォストークの中心地となっている大陸横断鉄道の駅前にあるホテルで一泊したカイトら一行は、朝の内にハルバ行きの汽車に乗り込んだ。

 異世界テルスでは最新の移動手段である蒸気機関車は、特有の音と匂いを発しながら力強く疾走した。

 大陸を疾走する車窓からの眺めは、カイトにとって旅の高揚感を伴うものだった。

 夜半には目的地であるハルバに到着したカイトら一行は、駅から最寄りのホテルに宿泊すると、翌朝にはチタ行きの汽車に乗り込んだ。

 カイトが想像していたよりも乗り心地はいいが、慣れてしまえば退屈でもある車中で、一行の面々はポーカーに興じた。

 魔道士としての収入の高さを反映してレートの高いポーカーにはシルビアも参加し、その分析の速さとポーカーフェイスで圧倒的な強さをみせた。

 時刻表の通りに夕刻にはチタへと到着した一行は、同様にホテルに一泊して翌朝のヤール行きの汽車に乗り込んだ。

 ヤールへ向かう頃には、食堂車での食事をゆっくりと愉しみ、客車ではポーカーに興じるというサイクルにカイトたちはすっかり慣れてしまった。

 夜半にヤールへと到着した翌朝には次の目的地であるオムスク行きの汽車に乗り込むといった、何度も繰り返した駅とホテルとの行き来の中で、職人らしき父子が大きな道具箱を一緒に運ぶ姿を見たカイトがピタッと足を止めた。

「どうかしましたか?」

 急に足を止めたカイトへステラが声をかけると、微苦笑を浮かべたカイトは一呼吸置いてから答えた。

「いえ、特に何があったってわけじゃないんですが、何となく今でも実感が湧かないなあ……と」

「実感、ですか?」

「はい。魔王と称される男へ会いに行くと覚悟してたのに、その魔王が治める国といえば、どの街も平和で活気があって……」

 カイトの明瞭とはいえない感想を聞いたステラが「そうですね」と短い同意を返して、大陸の晴れ渡る空を見上げる。

 つられて空を見上げたカイトは、頬に大陸特有の乾いた冬の風を感じた。

「それに……父がいるはずの帝都に近づいてるっていう実感も未だに弱いっていうか、自分の気持ちを上手く掴めてないって感じなんです」

「ダイキ卿に関する記憶がほとんど無いのなら、それも致し方ないと思います」

「どんな男でしたか?」

 カイトが端的な質問を向けると、ステラは微かに思案する表情を浮かべてから答えた。

「わたしもそれほどダイキ卿との接点があったわけではありませんが……多面的な人物だったようには思います」

「多面的……」

「清濁併せ呑む、とでも言うんでしょうか。器の大きさを感じさせる方でした」

「そうですか……」

 ステラは言葉を選んで答えているようにカイトは感じたが、それ以上は踏み込まないことにした。

 カイトら一行を乗せた汽車は夕刻にオムスクへ到着。翌朝にはエカチェ行きの汽車に乗り込み、その翌朝にはヴァトカ行きの汽車に乗り込んだ。

 ヴァトカの駅に着いた時には十二月もすでに七日となり、街に漂う年末の気配もめっきり強くなっていた。

 冬の匂いに包まれた夕刻のヴァトカ駅のホームへ降り立ったカイトを、出迎えるように一人の男が立っていた。

 百九十四センチとセリカよりも背が高い男は、群青の地に雌黄で縁取られた軍服を着ていた。

 同色のマントには鮮やかな黄色で刺繍されたサンダーバードのエンブレムと、首席魔道士を示す「Ⅰ」の数字。

 ゆっくりとした足取りで真っ直ぐにカイトへ歩み寄りながら、男はゆったりとした動作で右手を軽く挙げてみせた。

「どうもどうも、カイト卿ですね。ワキンヤン魔道士団のトゥアタラです」

 テルス史に類を見ない急速な発展を遂げたアメリクス合衆国の筆頭魔道士団である、ワキンヤン魔道士団の首席魔道士として世界に名を馳せるトゥアタラは、リラックスした笑みを浮かべていた。

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